Skellig Michael (04/07/16)

ヨーロッパの果て、アイルランドの南東 Kerry 州の南東20kmの海上に、Skellig という名前の大小二つの無人島が浮かんでいる。大きい方の島には、初期キリスト教の修道院の遺跡があり、約1,000年の昔ここに修道士たちが住んでいた。Kerry 州の州都 Killarney から The Ring of Kerry と呼ばれる周遊路を1時間半ほど行った Cahersiveen という町に宿を取り、翌日船でこの島を訪ねた。

ship

船は、Portmaguee という、漁港から出発する。Skellig には、12人乗りのライセンスされた船19槽しか上陸することができない。Portmaguee の島を出て、15分ほどで半島部を抜けてすぐに、大小二つの島が姿を見せたが、見えてからも数十kmの距離があり、近づくまでにはさらに40分以上を要した。向かって左側が Small skellig、右側が Skellig 本島である。


船は、Small skellig に接近、旋回し、鳥の聖域であるこの島を迂回するように Skellig 本島に到達する。黒い岩肌を、びっしりと白く染めるのは、パフィンと言う名前の鳥たちである。手付かずの自然というのはこういうものを言うのだろう。いつか誰かは上陸を試みたのかもしれないが、平地の無いこの島には定住することができなかった。まさに、鳥の楽園である。以前、周囲全てが断崖の島に、鳥の楽園が築かれている映像を見たことがあるが、実際にこのような場面に出くわすと、素直に心を打たれるものだ。大・小二つの Skellig の周りを、ゆっくりと周遊するだけの船もあるらしいが、今回乗った船は、Skellig 本島に上陸する船であり、そのため、Small Skellig を間近で見れるのはほんの5分であった。しかしながら、若い船長が気を利かせてスピードを落としてくれたおかげで、島を白く染める鳥の一匹一匹を、何とか視認することができた。

church

Beehive cell

Skellig 本島の高さは、217mあり、修道院のある高さ150mまで登るのは一苦労である。片側断崖の急登を、左右にパフィンを眺めながら15分ほど登り、ようやく修道院に辿り着いた。船が、今日一番乗りであったおかげで、しばし静かな時間を楽しむ。Beehive cell とも呼ばれる、平らな石を重ねたドーム上の建築物は、アイルランドの他の地方で見られる、より昔、数千年前に作られた石造りの建造物と基本的に通じるものがある。6世紀に起源を遡るこの修道院のケルト十字は、Clonmacnoise や Monasterboise などの他のアイルランドのキリスト教遺跡に見られる高度なハイ・クロスと比べると非常に素朴である。それが、ここで自然と共に静かに暮らした修道士たちの生活にふさわしく感じた。


重なる岩に花が咲いていた。Small skellig をこのように見下ろし、修道士たちはこの島で何を思ったのだろうか。

flat land

monument

自分たちが登ってきた、今なっては唯一の登攀ルートとは別の階段が、修道院から伸びていた。左下には、パフィンの姿も見られる。岩と、土と、草と、パフィン。植生は非常に限られていて、木はどこにも見られなかった。修道したちは、パフィンの糞で肥沃な土壌の広がる平野部で野菜を作り、パフィンの卵と肉を食べ生活したとそうだ。このような島に、人が住んでいられると言うことは驚嘆に値するが、生きる上で必要最低限のものは何とか揃っていたわけだ。


6世紀に人が住み始めたこの島も、3度のバイキングの襲来により修道士たちはみな連れ去られ、再び無人島になったという。それから、恋人たちの結婚式の場として、数百年前に再び注目を浴びるまで、この島は鳥の楽園だったのだろう。人がそうしたように、鳥もまた、屋根のある Beehive cell の中で、雨を避けて眠ったのかもしれない。あるいは、誰か本土から逃れてきた人が、住むことがあったのかもしれない。今はただ、遺跡が残るばかりだが。

ticket

ship

そして、ここで生活するために、最後に絶対に必要なもの、水は、川の無いこの島では雨水から取ったと考えられているそうだ。修道院の中には、このように水がたまるところがあり、これが、この島で唯一の水源となっていたそうだ。


船の数の制限のおかげで、過剰に人が多くならず、この遺跡の雰囲気を十二分に楽しむことができたのは良かった。立地条件は違うが、スオメンリンナの要塞と相通じるものがある。いくら素晴らしい文化的遺跡でも、過度に観光地化され、その時代に思いを馳せる余裕が無いほど混雑してしまっては、十分にその遺跡を楽しむことはできない。スオメンリンナの要塞や、このスケリッグ・ミカエルのように、静かな雰囲気が適した場所が、そうあることは素晴らしい。もちろん、ヴェネチアのように、昔から賑わいのある街は賑わいがあるのが本来あるべき姿だと思うが、こういう場所は静かであって欲しい。その場所を真に味わうに適した雰囲気があるように思う。そういう意味で、同じミカエル神に関する文化的遺跡である、極度に観光地化されたため不自然に人で混雑したフランスのモン・サン・ミシェルより、こちらのスケリッグ・ミカエルの方が僕は何倍も好きだ。

church

fortress

野菜を栽培していたと思われる、平坦な土地は、修道院までの急登の脇にある。しかし、このような岩の島に、土はどこからやってきたのだろう。そんなことを考えながら、ピクニックをしていたら、2時間の島の滞在はすぐ終わってしまった。


船が島を出発するとあっという間に Skellig 島は小さくなっていく。緑の野にジグザグに登った道が走っている。この島にはまた来たい。そしてそのときも、この大切な雰囲気が残されていることを願う。非常にアクセスの悪い場所ではあるが、そのおかげでこれまでこの島の自然な状態に残っているのだろう。人間が作ったヘリ・ポートだけが、その調和を崩していたが、これは仕方が無いか。

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